【APF SP】 第2回 《いつか どこかで》 木野村レポート ~岐阜県海津市の勝賀


今回の「いつか どこかで」 ~ sometime somewhere ~ は、岐阜県海津市の勝賀「かつが」という場所(JR岐阜羽島駅から南西に車で10分程)からの報告です。

仕事柄、普通の人よりは周りの何かを探すような習慣になっているとは思っていますが、目の前に広がるこの場所は、まさに『金色(こんじき)の大地』そのものだったのです。
早速、畦道に車を停め、写真を撮ることにしました。
ちなみに私は、ほぼ毎週末にある習慣を履行するためにこの場所を車で走っています。
(それについては、今後の「いつか どこかで」の中で報告させていただく予定です。)
この景色を観て最初に思ったのは素直に「美しい」ということ。
それとアニメ映画「風の谷のナウシカ」のエンディングの映像。20年以上前の作品ですが、主人公の少女が生き返る?シーンで、それを見た老婆のセリフは「その者、青き衣をまといて金色(こんじき)の野に降り立つべし。失われし大地との絆を結びついに人々を青き清浄の地に導かん。」
映画のあらすじは、極限まで発達した人類の文明が最終戦争を引き起こした結果、人間の生活圏が腐海と呼ばれる通常の生活が出来ないような深刻な状況になり、従来の動植物は一切生息できず、腐海の周辺に住む人間の健康や作物の生育にも深刻な影響を及ぼしてしまう。人間や家畜が腐海に分け入る際はマスクを身につける。わずかに残った人間は、風向きに守られマスク無しでも人が暮らすことができる小さな「風の谷」で細々と暮らしながら腐海と共生していくという内容なのです。

それを思った次の瞬間、記憶の中にある映画の1シーンと目の前に広がる美しい光景が、福島をはじめとした被災地周辺の状況とリンクしたのです。
でも、リンクしただけで終わらないのがジャーナリスト。「何故ココにコレがあるの?」という次なる疑問が生まれてきます。そうなると、それを解決する為には直接声を聞くことです。
取材では、記事にするために状況や既得情報を再確認するのは勿論ですが、現場で直接得られる新情報や声は自分の想像を覆し新しい事実に導いてくれます。
というわけで、朝7時過ぎということでかなり早い時間でしたが、キョロキョロしながら人を探すと路肩に停まる一台の電動カートが目に留まりました。早速、そのまわりを探してみると農作業をしている女性を見つけました!
流石にその映画に出てくるような青い衣を着た人ではありませんでしたが、タマネギを引いていた女性に声を掛けると仕事の手を止め、この『金色の大地』について話を聞かせて下さいました。
以下、女性から聞かせていただいた話をまとめます。

まず最初に結論から言うと、この『金色』の正体は『麦』とのこと。
昨年の秋、お米の収穫が済んだ土地にあらためて種を撒き、冬を越えて今収穫の時期を迎えたとのこと。収穫後は、組合に出荷し加工された上で最終的には、一般家庭の食卓や学校の給食などになる。冬の寒さにも耐え育ちすぎる場合は、いわゆる「麦踏み」を行い発育を遅らせることもある。
この広大な土地は、「休耕田」なので麦の収穫後は水稲を植えることは無く、大豆(枝豆)の生産にとりかかり、秋には収穫する予定とのこと。なるほど!農地は長いスパンで計画を立て生産していることがわかりました。
続いて、福島をはじめとした被災地近隣の農作物等の出荷制限や放射線量による摂取制限について訪ねると、若ければ現地に行って何か手伝いをしたいが、年老いた自分では何もしてやれない。地域の皆とも話はするが、「ただ気の毒というしかない。普通に作物を作り、出荷できるということがどれだけありがたいことか。」と話す。
また、インタビューの間、女性の背後には数匹にモンシロチョウが飛び交う本当にのどかな状況で、きっと、あの震災さえなければ被災地等の多くの場所で同じような光景があったのでしょう・・・。
私自身が3月と4月にチームと共に訪れた被災地では、津波の被害を直接受け流されてしまった農地はもちろん、直接被害を受けなかった農地でも多くの問題が残る。
まず、住民避難により作物を作ることが出来ない現実がある。
次に、たとえ収穫できたとしもなかなか出荷ができない。
そして、たとえ出荷ができたとしても安くしか売れないという現実。
その結果、福島県では福島県野菜の摂取制限が出た3月末に有機栽培に30年以上取り組んで来た男性が自殺してしまった。
現在、ワイドショーやニュースなどでは風評被害という言葉のもとに、野菜をはじめとした食品の安全性についての是非が問われているが、安全であるなら誰よりも農作物について詳しいであろう農家の方が、自殺という道を選ばなければならなかったのかを考えてみる必要もある。
また、こんな事例もある。
4月末に内閣官房参与の小佐古東大大学院教授が小児被爆線量の基準を20ミリシーベルトに引き上げることについて、「とんでもなく高い数字。自分の子供をそんな目に遭わせるのは絶対嫌だ。」と声を詰まらせ泣きながら会見し、1ミリシーベルトでの運用を強く訴えたたうえで、翌日には辞任しているという衝撃的な事実もある。
まとめとして、まずは現実を知る事、自身で事実を確かめること、そして真実を見極めること。
誰でもいろんな事に対して自分にとって都合の良い方向に考えたいという気持ちはあるとは思う。でも、そういった目の前の現実から目を逸らさず真剣に考え向き合うことで、もういちど「大地との絆」を考え、人々がこの地球で末永く暮らしていけるように向き合う覚悟を決める時が来ているのではないでしょうか?
みなさんはどう考えますか?
ではまた、いつか どこかで。~ sometime somewhere ~  
※今回の取材で瑞々しい大きなタマネギをいただきました。とても美味しかったです。ありがとうございました。
取材 H23年6月5日(日)
記事/撮影 木野村 匡謙

コメント / トラックバック58件

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